STが最低限押さえておくべき精神医学の知識

精神医学の分野は、言語聴覚士の専門分野ではないので、直接アプローチすることはないと思いますが、そのような既往歴や現病歴のある患者さまと関わる場面は多いです。

また、既往歴がなくても、脳卒中などの影響により精神疾患が出現することもあります。

そのような患者さまに寄り添ったリハビリテーションを提供できるよう、「STが最低限押さえておくべき精神医学の知識」をお伝えします。

精神医学における因子についての概念

精神医学では、100 年以上も前のドイツ精神医学の外因・内因・心因の概念が精神疾患を考えるうえで重要な概念とされています。

DSMやICD-10 により 1980 年代にいったん解体されましたが、現在でも多くの臨床家に大きな影響を与えています。

  • 外因:精神疾患との因果関係が明らかなもの(脳性や脳外性、薬物中毒など)
  • 内因:原因不明なもの(統合失調症、気分障害など)
  • 心因:環境への不適応(パニック障害、うつ病など)

意識障害

意識狭窄

意識の明瞭度が低下している状態のことです。程度により以下のように分類されます。

  • 明識困難状態
  • 傾眠:軽度の意識混濁でうとうとして眠りやすい状態
  • 嗜眠:中度〜重度の意識混濁で強い刺激で多少覚醒反応がある状態
  • 昏睡:最も重度の意識混濁で完全な意識消失状態

意識変容

軽度〜中等度の意識混濁と精神症状が合わさっている状態のことです。種類によって以下のように分類されます。

  • せん妄:意識混濁は変動しやすく1〜2週間で消失することが多い
  • アメンチア:せん妄の軽度なもの
  • もうろう状態:意識の狭窄が著しい状態で通常は突然始まる

うつ病

症状は以下の通りです。「うつ病」は、うつ状態のみを指すものであることに注意しましょう。

症状
  • 感情:抑うつ気分、感動できなくなる、離人症状、自殺念慮、自殺企図 など
  • 思考:思考抑制・思考制止、微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想)など
  • 意欲行動:精神運動抑制・精神運動制止、うつ病性昏迷、仮性認知症 など
  • 身体:睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)など

発症年齢は20歳代と40〜50歳代と2つのピークがあり、大学や職場で予防策が重視されています。発症については女性が男性の2倍多く、自殺者は男性に多い傾向があります。症状は人によって様々で、3〜6ヶ月で落ち着き寛解状態となる場合もあれば、数年〜数十年に及ぶ場合もあります。

セロトニン(気分)やノルアドレナリン(意欲)など神経伝達物質の代謝が障害されることにより発症すると考えられています。

発症要因
  • 病前性格:執着器質、仕事熱心、徹底性、几帳面、正直、強い正義感、責任感 など
  • 遺伝素因
  • 状況因:環境の変化、新知的・社会的ストレス
  • 身体因:周産期のうつ、冬季のうつ病、疲弊うつ病 など

躁うつ病(双極性障害)

うつ病より発症年齢が若く、自殺率が高いことが特徴です。うつ病と誤診されてしまうことが多く発見されるまでに平均7年程度かかります。

症状
  • うつ状態:うつ病と共通
  • 躁状態:自己評価が高い、観念放逸、誇大妄想(恋愛妄想、発明妄想、宗教妄想)、多弁、行為心迫、逸脱行為(迷惑行為)、浪費 など
  • 身体:短時間睡眠でも疲れない

20〜30歳代で発症することが多く、男女差はありません。慢性化しやく、再発率は90%となります。発症要因は明確ではありません

統合失調症

思春期から成人期にかけて発症し、特徴的な思考障害、自我障害およびそれに伴い行動異常を示し、多くは慢性的に経過し、自発性や対人接触が低下し、社会生活に困難をきたす疾患です。

また、認知機能低下により、記憶力、注意・集中力、判断力の低下がみられます。

14〜35歳までに発症し、40歳を過ぎると稀(遅発性統合失調症)になります。障害寛解率は0.85%で性差はありません。早期死亡率が高い傾向があります。

症状
<陽性症状>

急性期にみられる症状で、生産的であることが特徴です。

  • 思考障害:連合弛緩、思考途絶
  • 妄想:被害的内容の関係妄想、注察妄想
  • 幻覚:幻聴(知覚している)
  • 自我障害:思考伝播、思想伝播
  • 精神運動障害
<陰性症状>

消耗期にみられる症状で、通常ある機能が失われている状態です。自分が崩れないように行っている行為です。

  • 感情鈍麻:感情がないように見える
  • 無為:無気力
  • 自閉:自発性や接触の欠如

タイプ分類

  • 妄想型:30歳代の発症が多く、幻覚妄想状態で急に始まる。妄想が主症状。
  • 破瓜型:14〜25歳で潜伏的に進行します。陰性症状・自閉が主症状。
  • 誇張型:20歳前後の発症が多く、突然の緊張病性興奮が緊張病性昏迷となる。交互に繰り返す場合もある。

アルコール依存

大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態が、アルコール依存症です。その影響が精神面にも、身体面にも表れ、仕事ができなくなるなど生活面にも支障が出てきます。またアルコールが抜けると、イライラや神経過敏、不眠、頭痛・吐き気、下痢、手の震え、発汗、頻脈・動悸などの離脱症状が出てくるので、それを抑えるために、また飲んでしまうといったことが起こります。

神経病

身体症状があるのに身体的症状に合致する器質的な変化は認められない状態のことです。

現実見当能力は比較的保たれていて、自分は病気であるという認識があります。

症状
  • 恐怖症:広場恐怖症(外に出られない)、社交恐怖症、特定の恐怖症
  • 不安障害:パニック障害、全般性不安障害
  • 強迫性障害
  • 重度ストレス反応および適応障害:急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害
  • 解離性・転換性障害:ストレスにより声が出なくなったり、歩けなくなること
  • 身体表現姓障害:身体化障害、心気障害、身体表現性自律神経機能不全
  • 神経衰弱
  • 離人・現実感喪失症候群:自分や外界を疎遠に感じる

パーソナリティ障害

青年期〜青年期の間に発症します。頑固で柔軟性がなく、本人や周囲の人に苦痛をもたらす考え方や行動が長期に渡り続きます。

症状
  • 著しく調和を欠いた態度と行動を示す
  • 異常行動パターンはエピソード的ではなく、長く持続する
  • 個人的、社会的状況の広い範囲で明らかな適応不全がある
  • 小児期あるいは青年期に始まり、成人期に入っても持続する
  • かなり経過したあとに、個人的な苦痛が明らかになる
  • 通常、職業的、社会的行動能力の重大な障害を伴う

主な種類
  • 猜疑性(妄想性)パーソナリティ障害:周囲に対する不信可、猜疑心が異常に高くなる
  • シソイド(統合失調質)パーソナリティ障害:統合失調症と類似した症状がみられる
  • 反社会性パーソナリティ障害:罪悪感を持たずに反社会的行動をとってしまう
  • 境界性パーソナリティ障害(情緒不安定型人格障害境界型):感情の波が激しく自分で自分の感情を制御することが困難。見捨てられ不安がみられる。
  • 演技性パーソナリティ障害:常に注目されていたいと考える
  • 自己愛性パーソナリティ障害:「自分は特別な人間である」と考え、強い劣等感があり挫折に弱
  • 回避性パーソナリティ障害:失敗や他者からの否定を極度に恐れる
  • 依存性パーソナリティ障害:物事の判断を常に近しい人に依存する
  • 強迫性パーソナリティ障害:読字のルールで物事を進める

まとめ

以上、「STが最低限押さえておくべき精神医学の知識」をご紹介しました!

ぜひ明日からの臨床に活かしてみてください。