世界の捉え方が違う?マイペース?自閉スペクトラム症について

この記事では、自閉スペクトラム症についての歴史や特徴について解説していきます。

自閉スペクトラム症とは

自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害・Autism Spectrum Disorder:ASD)は、生まれつき対人関係がうまくできない、コミュニケーションがとりづらい、言語の発達が遅いなどが特徴の発達障害の1つです。

この障害特性により日常生活や社会生活において困難さを感じることがあります。

原因はまだ不明ですが、親の育て方によって発症するものではありません。人口の2.5〜5%程度(20〜40人に1人)に発症すると報告されていて決して珍しくない疾患です。

自閉スペクトラム症が疑われる子どもの特徴

自閉スペクトラム症が疑われるお子さんには、次のような特徴がみられます。近年では1歳半の乳幼児健康診査でその可能性を指摘されることがあります。

  • 視線が合わないか、合っても共感的でない
  • 表情が乏しい、または不自然
  • 名前を呼んでも振り向かない
  • 人見知りしない、親の後追いをしない
  • ひとりごとが多い、人の言ったことをオウム返しする
  • 親が「見てごらん」と指さしてもなかなかそちらを見ない
  • 抱っこや触られるのを嫌がる
  • 一人遊びが多い、ごっこ遊びを好まない
  • 食べ物の好き嫌いが強い
  • 欲しいものを「あれとって」と言葉や身振りで伝えずに、親の手を掴んで連れて行く

など

※ 正確な診断のためには専門の医師や心理士による問診・面接・行動観察・検査などが必要です

歴史

以前は、自閉症の特性をもつ障害は、典型的な自閉症に加え、特性の目立ち方や言葉の遅れの有無などによって「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障害」などに分けられていました。

典型的な「自閉症」は、言葉の発達が遅れ、相互的なコミュニケーションをとるのが難しく、「アスペルガー症候群」では言葉の遅れがなく、比較的コミュニケーションが取りやすいという特徴があります。一方で、これらの障害では対人関係の難しさやこだわりの強さなど、共通した特性が認められます。

そのため、別々の障害として考えるのではなく、虹のようにさまざまな色が含まれる一つの集合体として捉えようとするのが「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害・ASD)」という考え方です。その歴史的な流れをご紹介します。

1943年 レオ・カナー

「早期乳幼児自閉症」と名付けた論文を発表し、「自閉症(Autism)」という言葉が世界中に認知されました。また、以下のように特徴を表しました。

  • 他社との情緒的接触の重篤な欠如
  • 物ごとをいつも同じままにしておこうとする要求
  • 物事に対する強い関心と物を起用に扱う
  • ことばがないが、あってもオウム返しに、他社には通じない独自のことば
  • 知的な顔立ち、特殊な領域での優秀な能力

1944年 ハンス・アスペルガー

「小児期の自閉的精神病質」と名付けた論文を発表し、自閉症における「特別の関心」「異常な固執」「定型化した行動」に注目しました。

その後、精神科医のローナ・ウィング(1928-2014)が、自閉症的精神病質を「アスペルガー症候群」と呼び換えます。

1954年 ブルーノ・ベッテルハイム

「親の教育が悪いからASDになる」という主旨である「冷蔵庫マザー理論」を世界中に広めました。

現在では否定されています。

1982年 ニコ・ティンバーゲン

「精神的トラウマが原因である」という主旨である論文を世界中に広めましたが。

現在では否定されています。

1990年 ローナ・ウィング

多数例の研究から自閉症とは診断されていないが社会性、コミュニケーション、想像力の3つ組の障害をもつ子どもたちがいることに気づき、「自閉症スペクトラム概念」を提唱しました。

ローナ・ウィングの三つ組
  1. 社会性、人との関わり方の質的障害(文脈、状況理解)
  2. コミュニケーションの質的障害(視線、表情、身振り、ことば)
  3. イマジネーションの障害(こだわり・見直し)

※現在では①と②を合わせて「社会的コミュニケーションの障害」ということもあります。

当時は、自閉症という診断は、言語によるコミュニケーションが限定されていて、対人関心も非常に乏しい子どもにのみにつけられていました。言葉によるコミュニケーションが可能であったり一方的でも対人に関心がある場合は自閉症とは考えられていませんでした。

そこで、ウィングは3つ組の障害を持っていながら自閉症と診断されない子どもたちの一部はアスペルガーの報告したケースに似ていることからアスペルガー症候群という診断が適切であるとしました。

特性

特性として以下が挙げられます。症状については個人差があります。

  • 言語・言語によるコミュニケーションの発達の遅れ(オム返し・エコラリア等)
  • 非言語性のコミュニケーションの発達の遅れ
  • 人間関係の形成が苦手・社会性の発達の遅れ
  • 特定の物事に過度に関心を持つ(こだわり・ワンパターン行動等)
  • 常同行動・多動・自傷・他傷・パニック 等
  • 聴覚・触覚などの感覚過敏(耳おさえ・体温調節の拙劣さ、汗が少ない等)
  • 不器用さ
  • 睡眠の異常、過集中、特定のものについて記憶力が高い

このような特性を「ある・なし」に分けるのではなく、傾向が強い人からほとんどない人まで、ひとつの特性のスペクトラム(連続体)としてとらえるのが自閉スペクトラム症です。

自閉スペクトラム症の特性だけがある人もいれば、注意欠如・多動症(ADHD)や、限局性学習症(LD)の特性もあわせ持つ人もいます。

発達障害との関係

日本では 2005 年に発達障害者支援法という法律が施行され、自閉スペクトラム症などの発達障害が支援の対象であることが明文化されました。

「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」

発達障害支援法

しかし、「自閉スペクトラム症とADHD」「LDと自閉スペクトラム症」など、特性を重ねてもつ人も多く、それぞれの障害を明確に分けて診断することは大変むずかしいことが知られています。また、年齢や環境により目立つ症状がちがうため、診断された時期により、診断名が変わることもあります

知的障害との関係

自閉スペクトラム症の方のうち、約半数は知的障害を伴っていると報告されています。

以前までは、知的障害を伴わない自閉スペクトラム症は、高機能自閉症、広汎性発達障害などと診断されていました。また、アスペルガー症候群と呼ぶこともあります。

知的障害を伴う方、伴わない方それぞれで抱える困難さは異なりますが、いずれも共通する自閉スペクトラム症の特性をもっています。

併存することの多い症状

自閉スペクトラム症の人たちは、特性を周囲に理解してもらいにくく、

いじめ被害に遭う、一生懸命努力しても失敗を繰り返す、などのストレスがつのりやすいため、身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)、精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などの「二次的な問題(二次障害)」を引き起こしやすいといわれています。

そうなる前に家族や周囲がその子の特性を正しく理解し、本人の「生きづらさ」を軽減させて二次的な問題を最小限にとどめることが、自閉スペクトラム症への対応の基本となります。

  • ADHD
  • LD
  • 知的障害
  • うつ
  • 不安(特に社会不安)
  • 強迫神経症
  • 摂食障害
  • 精神病・統合失調症
  • てんかん
  • 脆弱性X症候群
  • 結節性硬化症

など

原因

現在、正確には解明されていません。

しかし、遺伝をはじめ多くの要因が複雑に関与していると考えられており、親の育て方・虐待・愛情不足などが原因ではありません。

また、トラウマなどを背景に自分の殻に閉じこもってしまうといった後天的な病気とも違います。

脳構造の特徴

生まれつき、脳の中枢神経系という情報を整理するメカニズムに特性があるため、できることとできないことにばらつきがあり、日常生活でさまざまな困難が生まれてしまいます。

  • 乳幼児期にの脳肥大の時期がある
  • 重さ、体積ともに自閉症児のほうが重い
  • 扁桃体、海馬、尾状核と小脳の一部が小さい
  • マインド・リーディング課題に取り組むときに社会脳のネットワークが不活発

マインド・リーディングとは社会の中で人間関係を円滑にし自分の思うように物事をすすめるためのテクニックのことです。また社会脳とは前頭前皮質内側部、眼窩前頭皮質、扁桃体、紡錘状回領域を指します。

神経伝達物質の特徴

  • セロトニンの上昇
  • GABAの減少(抗ストレス作用)
  • オキシトシン濃度が低い

まとめ

以上、「世界の捉え方が違う?マイペース?自閉スペクトラム症について」でした。