失語症とは、脳の損傷によって生じる言葉の障害です。
失語症になると「言葉を聴いて理解すること」「言葉を話すこと」「文字を読んで理解すること」「文字を書くこと」「計算すること」が難しくなり、仕事や日常生活に影響を及ぼします。
目次
失語症の原因
私たちの脳には、言葉を司る言語中枢があります。
言語中枢の多くは左側の脳にあります。
脳卒中や脳外傷、脳腫瘍などにより言語中枢が損傷されることで生じます。
失語症の回復
失語症の回復は、脳損傷の部位や範囲、失語症の重症度や年齢など、様々な要因が影響し、個人により異なります。
失語症は長期にわたり回復することが報告されていることから、粘り強い関わりが大切です。
失語症の症状
言語中枢の損傷部位や範囲により、失語症の症状は異なります。
ここでは、「言葉を聴いて理解すること」「言葉を話すこと」「文字を読んで理解すること」「文字を書くこと」「計算すること」の主な症状について説明します。
言葉を聴いて理解することの障害
語音認知障害
聴いた言葉の音韻(言語音)を認識することの障害です。
言葉の意味がわからなかったり、聞き間違えたりします。
単語の意味理解障害
単語の意味を理解することの障害です。
以下の2種類のパターンがあります。
【語彙性判断障害】
音韻の系列を語として認知することの障害です。語に対する既知感を失っていて、日本語の語彙として認識できないため、その語の意味も理解が難しい状態です。
例えば「みかん」が日本語にある言葉だということが分かりません。
【語義理解障害(語義聾)】
音韻の系列を意味と結びつけることの障害です。例えば、「みかん」は日本語にある!と思えても、意味を理解することが困難です。
統語理解障害
文章を理解することの障害です。
以下の特徴があります。
- 可逆文は非可逆文より理解が困難
- かきまぜ語順(転換語順)は基本語順より理解が困難
- 統語構造が複雑な文は単純な文より理解が困難
- 言葉が長くなると理解が困難(言語性短期記憶低下)
言葉を話すことの障害
喚語障害
失語症の中核症状です。
意図した語が正しく喚語できない状態です。
脳内の想定される語彙のファイルから言いたい語を選び出せないイメージです。
喚語障害に与える語の影響は以下の通りです。
- 高頻度語に比べて低頻度語の方が喚語が難しい
- 高親密度語に比べてて低親密度語のほうが喚語が難しい
- 高心像性語に比べて低心像性語のほうが喚語が難しい
- 名詞と動詞など品詞の違いによって喚語の困難さが異なる場合がある
- 特定カテゴリーの喚語が特に困難になる場合がある
「心像性」とはイメージのしやすさ、です。
【喚語困難】
言葉が出てこなくて、何も言えない状態です。
【迂言/迂遠(うげん/うえん)】
喚語できないときに別に言い方で説明することです。
指示語が多くなったり、回りくどい言い方になったりします。
【錯語】
言いたい言葉とは違う言葉が出てきてしまう症状です。
錯語には以下のように種類が多くあります。
- 語性錯語 :イメージしている言葉とは別の実在する日本語に誤る
- 意味性錯語:意味的に関連のある語に誤る
- 無関連錯語:意味的に関連のない語に誤る
- 形式性錯語:意味的に関連がないが音韻的に類似した語に誤る
- 混合性錯語:意味的にも音韻的にも類似した語に誤る
- 音韻性錯語:一部の音を誤る(字性錯語)
- 記号性錯語:2つ以上の語が連合した実在しない語に誤る
【新造語】
実在する語にはない、無意味な音の並びとなったもの。
意味のとれない語に誤るということは、音韻選択配列に障害があるという証拠でもあるよ!
統語障害
文章で話すことの障害です。
【失文法(しつぶんぽう)】
発話の際に文章が短く、文章の構造が単純で助詞などの機能語が省略されるなどの誤りです。
日本語では以下のような特徴がみられます。
- 重度の場合、発話は断片的で語または句の羅列となる
- 統語構造は単純で文の長さが短い
- 格助詞の脱落、誤用がある
- 動詞の脱落、誤用、名詞化がある(例「私、昨日、水泳。」)
- 助動詞の使用が制限される
【ジャルゴン】
多くの錯語や新造語からなる意味のとれない発話のことです。
【反響言語/エコラリア】
会話中に相手が入った言葉や質問、話しかけを繰り返し発話することです。
【補完現象】
例えば相手が「犬も歩けば」と言うと、「棒に当たる」と答えることです。
【再帰性発語】
話そうとすると言葉の意味に関係なく、全て同じ初語となることです。
イントネーションはみられません。
【残語】
残存した語句を文脈に応じて多様なイントネーションを伴って用いられるものです。
発語失行(失構音)
構音プログラミングの障害です。
失語を伴わずに孤立しても生じることがあり、その場合は、純粋発語失行、純粋語唖といいます。
言語の障害ではないため喚語能力や文法能力には影響を与えません。
【音韻性錯語の特徴】
・大槻先生による主要症状
- 一貫性の乏しい構音の歪み
- 語を構成する音と音のつながり不全(音の連結不良)
・Wertzらによる中核症状
- 努力と試行錯誤と探索を伴う構音動作と自己修正の試み
- 正常なリズム、強勢、イントネーションの範囲とは思われないプロソディー異常
- 同じ発話を繰り返す
- 発話開始の困難
・笹沼先生による主要症状
- 構音動作がぎこちなく不正確
- 誤り方に一貫性が乏しい
- 音から音への移行が不自然
- 構音動作の単純な音より複雑な音で誤りやすい
- 短い語に比べて多音節語で誤りやすい
- 誤りの種類には、音の歪み、置換、繰り返し、脱落、付加などがある
- 発話速度が低下する
- 発話が不自然に途切れる
- 音節の持続時間が不規則に崩れる
- 強弱、抑揚が不自然
文字を読んで理解することの障害
読解の障害
【文字形態の認知障害】
視覚的に提示された文字の形態を弁別して日本語の文字として認識することが難しい症状です。
【語の読解障害】
語彙性判断障害:日本語の語彙にあるか判断できない状態
語義理解障害:日本語の語彙にある言葉であることは分かるが、その意味を想起できない状態
【錯読】
- 語性錯読:語の誤りを反映している音読の誤り。意味的に関連のない語への誤り。
- 意味性錯読:意味的に近い語への音読の誤り。
- 音韻性錯読:音韻性の誤りを反映させた音読の誤り。
- 視覚性錯読:形態が似た他の文字への音読の誤り。文字の一部から別の文字を連想して誤る場合もある。
- 類音声錯読:漢字の読みには対応しているが全体として意味をなさない。
文字を書くことの障害
【錯書】
- 語性錯書:意味的に関連のない語への書き誤り
- 意味性錯書:意味的に類似した語への書き誤り
- 音韻性錯書:音韻の誤りを反映した書き誤り
- 形態性錯書:形が類似した別の文字への書き誤り
- 類音性錯書:語の意味を虫して読み方が同じである別の漢字を書く誤り
失語症に合併する症状
発話の発動性低下
前頭葉内側面の損傷により発話の自発性が低下し著しく発話が減る症状です。
語漏(ごろう)
側頭葉周辺の損傷により、話が止まらなくなる症状です。
無言症(ムチズム)
前頭葉損傷によりまったく発話しなくなる症状です。
同時発話
相手の発話に合わせて同じことを同時に発話する症状です。
抑制欠如が背景にはると考えられています。
保続
一度やったことを不適切な場合で繰り返される症状です。
脳損傷患者に一時的にみられる症状で、失語症に随伴しやすいですが、失語症の症状とは区別されます。
今回は、病態や症状についてまとめさせていただきました。
今後、失語症を呈している方やそのご家族、周りの方々を支援する窓口が地域ごとに設置されています。今後追ってお知らせしたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!!
非可逆文とは、語の意味で文の理解が可能な文章のことです。
例)母がりんごを食べる →母 りんご 食べる
可逆文とは、文中の名詞を入れ替えても意味が成立する文章のことです。
例)子どもが母を押す → 母が子どもを押す
失語症により助詞や助動詞の理解が困難になることがあります。
その場合に単語から意味を理解することが難しい可逆文は聞き間違えることがあります。