症例報告を作るには?簡潔にまとめるコツ

症例報告(ケースレポート)作りに悩む方に参考にしていただけるよう、情報収集のポイントやまとめるときのコツまで、学生時代の経験や現役言語聴覚士としての臨床経験をもとに詳しく解説します。

  • 症例報告がどんなものなのか知りたい
  • わかりやすくて人に伝わる症例報告をつくりたい
  • 症例報告作りを極めたい

このような学生の方々以外にも、

  • 他職種からの情報収集がうまくいかない
  • 提出したらダメ出しをされてしまい、改善点を知りたい
  • 症例報告で最低限おさえるポイントが知りたい

日々他の業務をこなしながら症例報告を作成する現役言語聴覚士の方々にも
少しでも症例報告作りを楽しんでもらうきっかけになったら嬉しいです!

症例報告とは

症例報告とは、患者さまの疾患の症状や疾病の兆候、診断、治療、経過観察などを報告する資料です。

症例報告を作成する目的

私の考える症例報告を作成する目的はこちらです。

患者さまに質の高い言語聴覚療法を提供するため



患者さまに質の高い言語聴覚療法を提供するため

臨床現場のように走り続ける環境の中で、じっくり考え、文面としてアウトプットすることで情報や思考が整理され、より精度の高いリハビリを提供できるようになると考えています。

また、個々の経験を共有することで、注意すべきポイントなどの有益な情報を提供してくれます。

学生は実習で症例報告を作成

言語聴覚士になるための臨床実習は、「見学実習」「評価実習」「総合実習」の3種類あります。内容は学校によって異なりますが、基本的には以下の通りです。

見学実習病院や福祉施設で言語聴覚士や関連職種の仕事の様子を見学します。
評価実習患者さまに言語聴覚療法評価や検査、検査結果分析から訓練プログラムの作成を行います。
総合実習言語聴覚士の基本姿勢、言語聴覚療法評価や検査、結果分析、訓練プログラムの立案・実施、症例報告作成までの業務を行います。

この3種類の実習すべてで症例報告を作成する場合もあれば、総合実習のみ症例報告を作成する、など学校によって異なります。私の通っていた学校では3種類すべての実習で作成をしました。

症例報告書のもくじを把握する

症例報告書は、以下のようなもくじで作成することが一般的です。

書く順番は「③症例紹介」からとなります。

「①タイトル」や「②はじめに」は症例報告の要約となるため、整合性がとれるように最後に書きます。

  1. タイトル・所属・名前
  2. はじめに
  3. 症例紹介
  4. 医学的診断名
  5. 他部門情報
  6. 全体像
  7. 実施検査・検査結果
  8. 統合と解釈
  9. 国際生活機能分類(ICF)
  10. 訓練目標・訓練内容
  11. 考察
  12. おわりに・謝辞・参考文献
ツキノ

これは、”絶対”ではないのでご注意を。実習先のバイザーや学校の指示に従って作成してください!

もくじは臨床の流れに沿っている

もくじは臨床の流れに概ね沿っています。

実習もこの流れの中で行われることになりますので、今どの段階にいて、今後どのようなことをしなければならないのかを意識して実習や症例報告の作成に臨むと理解しやすくなります。

まずは「基本情報」を収集してまとめる

「③症例紹介」「④医学的診断名」「⑤他部門情報」「⑥全体像」の順で情報を収集しながら書いていきましょう。

「③症例紹介」は人物像が読み手に伝わるように

「③症例紹介」は、読み手に症例の人物像が伝わるように書いていきましょう。記載する内容は以下の通りです。

年齢、性別、利き手、使用手、身長、体重、BMI、要介護認定の有無、既往歴、家族構成、キーパーソン(KP)、主訴、趣味・特技、休みの日にしていること、好きなもの、などなど

症例の人物像が伝わる特徴を意識して記載しましょう。ネガティブな特徴ばかりを書くのではなく、ポジティブな特徴も記載することがポイントです。

ツキノ

項目すべてを記載する必要はありません。項目にないものでも必要に応じて記載しましょう。作成後にバイザーや担当教員に確認しましょう。



「④医学的診断名」はカルテを確認

「医学的診断名」と一言でまとめられています、医学的診断名、言語病理学診断名、神経学的所見、既往歴/合併症、現病歴をすべて分かる範囲で記載します。

「診断」を行うのはDr.であるため、Dr.のカルテなどに記載されます。個人情報の観点から学生はバイザーに相談し情報を得ましょう。

記載例1

【医学的診断名】左視床外側急性期脳梗塞 【言語病理学的診断名】高次脳機能障害 【神経学的所見】左片麻痺・左顔面神経麻痺 【既往歴・合併症】高血圧
【現病歴】X 年 Y 月 Z 日、本症例の様子を見に来た 息子が本症例の右上肢の脱力、右顔面神経麻痺、呂律障害を確認し、A 病院へ救急搬送される。MRI にて 左視床外側に脳梗塞を認め、保存的治療がされる。Z+15 日リハビリテーション目的で当院入院。

記載例2

【医学的診断名】中大動脈瘤破裂によるくも膜下出血【現病歴】20XX年Y月X日頃、職場で突然の頭痛と吐き気に襲われ、嘔吐を繰り返しながら倒れた。搬送先のA病院にて右前頭葉血種を伴う重度くも膜下出血と診断。緊急でクリッピング術と減圧開頭手術を行い、頭蓋形成術をX日+15日に行った。X日+85日、さらなるリハビリのためB病院の回復期病棟へ転入院。【言語病理学的診断名】ディサースリア【神経学的所見】左顔面神経麻痺、左舌下神経麻痺【神経心理学的所見】注意障害、遂行機能障害、ワーキングメモリの障害、構成障害、感情失禁【合併症】てんかん重積発作

「⑤他部門情報」は知りたいことを事前に考える

実習中にバイザーに「他部門に聞きたいことはある?」と聞かれて困ったことはありませんか?

判断できないことが多くて難しいと感じる人も多いのではないかと思います。

そこで他部門情報収集について解説します。

他部門情報を収集する目的

他部門情報は患者さまが総合的に効率よくきめ細やかな医療を受けるため、患者さまに関わる多職種が治療方針やゴール、情報を共有・把握することが目的です。



他部門に質問すべき内容とポイント

実際に他部門の方々にどんなことを質問したら良いのか、職種別にお伝えします。

職種名ポイント質問内容
医師(Dr.)とても忙しいため、質問は簡潔に!【疾患】投薬状況、画像診断、予後予測
【リハビリ】中止基準、禁忌事項
【退院】ゴール、治療方針
看護師(Ns.)日によって受け持っている患者さまが異なる場合があるため、すべての情報を把握しているわけではない!【ADL】トイレや食事、更衣などの病棟での介助量
【自室での活動】解除の頻度、トラブル等
【退院】ゴール設定、看護方針
理学療法士(PT)
作業療法士(OT)
可能であれば見学し勉強させていただきましょう!【ADL】歩行、トイレ動作、食事動作、更衣動作の動き
【高次脳機能】認知機能、注意機能、半側空間無視の影響
【退院】目標やそのに向けてどのような介入をしているのか
社会福祉士(MSW)患者さまの入院中や退院後の生活をサポートしています!【退院先】病院や施設の情報
【経済状況】保険の種類など
【家族との関係】キーパーソン、介護への協力など
ケアマネージャー
介護支援専門員
病院外のスタッフです!患者さまの退院後の生活を支えていきます。【自宅情報】段差、手すり、家族の協力
【介護用品】装具、車椅子、靴などの購入情報
【サービス】デイサービスや訪問リハなどの利用状況


記載例

【Ns.】昼間は自身で歩行練習をするなど活動的に過ごす。入院時から現在まで、ナースコールを自身で押す様子は見られない。服薬の自己管理は困難。

【PT】訓練意欲は高いが病識の低下がある。ADLはおおむね自立するも、片脚立位でバランスを崩すため、立位での更衣や入浴動作に監視は必要。

【OT】現在は上肢の麻痺はほとんどなく、巧緻性にも問題がない。整容や座位での更衣、食事、日中の排泄は自立。



「⑥全体像」は症例紹介の補足

「⑥全体像」は、「③ 症例紹介」の中に含めてもOKです。

症例紹介の補足として全体像を簡潔に述べましょう。

記載例

意思表示はしっかりされている。時折、夕方から夜にかけて不安感が強くなり、気持ちの浮き沈みの激 しい一面がある。



検査〜考察は整合性を意識して

検査結果から導き出される事実から考察し、信頼のできる文章を作成しましょう。

「⑦実施検査・検査結果」は事実のみを簡潔に

なぜそのような症状がでるのかを見分けるフェーズです。

また、実習での介入の場合は、入院中の患者さまに一時的に介入させていただく形になるため、自分の実施した検査を「STS実施検査・検査結果」として記載しましょう。



「⑧ 統合と解釈」は検査結果から導き出される事実を述べる

「⑦実施検査・検査結果」から検証結果をまとめ、統合したものを学術的に説明するフェーズです。

精神状態、コミュニケーション、言語機能、高次脳機能、呼吸発声機能、発声発語機能、口腔構音機能、摂食嚥下機能の9つの切り口から、検査結果を踏まえて状態を説明します。



記載例

【精神機能】意識は清明であるが見当識障害あり。【コミュニケーション】礼節保持。音声言語にて簡単な日常会話可能。【認知機能】日間差・日内差あり。 【言語機能】「聴く」は聴覚的把持力は 5 文節文まで 良好で、6 文節文も可能であるが十分ではない。「話す」は語の列挙が非常に困難であるが、日常会話は可能。「読む」は大きな問題なし。「書く」は氏名、日付け、単語の書字可能。 【高次脳機能】近似記憶、遠隔記憶、顕在記憶、作業記憶に障害が認められる。 【発話機能・発声発話機能】義歯が固定されていない場合は明瞭度に低下がみられる。【摂食嚥下機能】刻み食自力摂取可能。



「⑨ 国際生活機能分類(ICF)」で症例を取り巻く要素をまとめる

国際生活機能分類(ICF)とは?

国際生活分類(ICF)とは、2001年から使用が始まった「健康の構成要素に関する分類」という考え方です。

健康状態、心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子の、6つの枠組みから構成され、病院や施設などでは患者さまの全体像を捉える際に活用します。

このように図に示すとわかる通り、生活機能である「心身機能・構造」「活動」「参加」の各レベルや環境因子との間には相互作用があると考えるのが特徴です。



患者さまに合った「⑩ 訓練目標・訓練内容」の考案・実施

訓練を実施するときには、その患者さまに合わせた目標を設定しその目標を達成するための訓練を実施していきます。

目標設定の考え方

ニーズやホープを採用した目標を立てることが患者様のベストですが、理想ではなく確実に到達できる目標を設定することが求められます。

状態により期間は異なりますが、短期目標と長期目標を立てます。

成人であれば、短期目標は1〜2週間、長期目標は1〜3ヶ月。小児であれば、短期目標は3ヶ月程度、長期目標は就学までとなる場合が多いです。

訓練プログラム考案・実施

検査結果と本人の希望をもとに、客観的にみえる患者さまの言語聴覚士が訓練プログラムを作成します。

どのようなリハビリをどのくらいの期間を行うのか、どこまでいけばゴールなのかということを決め、本人やその家族に共有します。

また、症状があとから表出化することがあるため都度調整が必要となります。

「⑪ 考察」は症例報告の中で最も比重が置かれる

報告する目的、症例の状態や症状の原因、どんな訓練を実施したのか、その結果どのような影響を及ぼしたのか、考えられること・見えてきたことを紐解いていくフェーズです。

他の症例や文献を、今回行った方法と結びつけて考察し、症例報告を書き上げていきます。



さいごに「①タイトル」「② はじめに」を考案

全体を要約した内容を記載するため最後に書くようにしましょう。

「タイトル」や「はじめに」は、症例報告の症例、考察、結論が一目で分かるよう具体的かつ簡潔に記載します。以下は「はじめに」の例です。



記載例 1

 この度、回復期病院にて重度くも膜下出血を発症した症例に対し、評価・訓練を行う機会を得た。注意機能の向上と衝動性の抑制の訓練を実施したため、以下に考察を交えて報告する。

記載例 2

 今回、左視床梗塞と既往の認知症により記憶障害を主とする高次脳機能障害を呈した症例の評価、訓練を行う機会を得た。症例は高齢であることに加え、既往の認知症、心不全により心身両面に配慮を要した。心不全が悪化し、リハビリテーションの実施基準や条件が厳しくなる中で、いかに評価、訓練を行い、症例の生活を支援できるかを模索、検討したため以下に報告する。



まとめ

以上、「症例報告を作るには?簡潔にまとめるコツ」でした。

研修にご協力いただいている患者さまに全力で向き合い、自分の経験をぎゅっとまとめた、宝物のような症例報告を作成しましょう!